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熱気球パイロットとして世界を旅する空飛ぶフリーランスのイマ

7月10日公開!東ドイツから気球での亡命を描いた映画「BALLOON」を観よう!

気球好きの皆さんが心待ちにしているであろう、映画「BALLOON」の公開(7月10日)まで約1ヵ月。2020年1月に公開された「The Aeronauts」に続き、また気球映画が見られるなんて!嬉しい!

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©2018HERBXFILMGMBH,STUDIOCANALFILMGMBHANDSEVENPICTURESFILMGMBH

ということで今回は、当時のメディアが「東ドイツからの最も華々しい亡命」と報じた実話を映画化した「BALLOON」について、ご紹介したいと思います。

balloon-movie.jp

 

あらすじ

東西戦争時代の旧東ドイツでは大勢の市民が西側への亡命を試みていたため、秘密警察である国家保安省シュタージは国民の日常生活に厳しい監視の目を光らせ、ベルリンの壁を越えようとする者は国境警備隊によって容赦なく射殺していました。

1979年の夏。
電気技師ペーターとその家族が、準備に2年を費やした「気球による脱出作戦」を決行。しかし、防水加工されていない布製の球皮が湿るという誤算が生じ、高度は瞬く間に低下。浮力を失った気球は国境の200m手前に不時着してしまいます。

夜明けを待って帰宅したペーターら一家は、何事もなかったかのように以前と同じ生活に戻ろうとしますが、シュタージがこの一件を嗅ぎ付け、捜査が始まります。

気球のサイズとガス燃料の量から飛行時間出発地点が絞り込まれ、物証の中の処方薬から容疑者の捜索が進んでゆく…シュタージの影に怯えるペーターらに「もう一度、気球を作れば?」と励ましたのは、幼い息子のフィッチャー。

6週間後に兵役を控えた設計者であるギュンターとその家族を巻き込み、再挑戦を決意。総勢8人のふた家族が乗れる気球をつくるには、前回以上に大量の布が必要。怪しまれないように各地の生地店を回って少しずつ布を調達し、不眠不休で新たな気球の製作を進めます。

一方、シュタージも国家の威信をかけて捜査を続けていました。生地店からの情報と、ガスボンベのラベルの情報から容疑者が住む地区を推定。軍隊を動員し、包囲網を張り巡らせます。

シュタージの手が間近に迫っていることを察したペーターらは急遽出発を1日早め、検問を間一髪すり抜けるようにして森の草原に辿り着き、作戦を決行します。

スタッフ&キャスト

  • 監督・脚本・演出:ミヒャエル・ブリー・ヘルビヒ
  • 脚本:キット・ホプキンス, ティロ・レーシャイゼン
  • ペーター・シュトレルツィク:フリードリヒ・ミュッケ
  • リス・シュトレルツィク:カロリーヌ・シュッヘ
  • ギュンター・ヴェッツェル:デヴィッド・クロス
  • ペトラ・ヴェッツェルアリシア・フォン・リットベルク
  • ザイデル中佐トーマス・クレッチマン

製作エピソード①映画化権が独占的かつ永久にディズニーに売られていた

ヘルビヒ監督が気球に乗った実在の家族、シュトレルツィクとヴェッツェルの両家族に連絡を取り、映画製作の企画を進めていたのだですが、脚本の準備段階で、1970年代末に彼らの伝記に関する権利をディズニーに売却していたことが分かり、突然とん挫してしまったのだそう。

両家とも映画化権を独占的かつ永久的にディズニーに売り渡していたのです!

その後2年間、ヘルビヒ監督は何とか権利を手に入れようとしましたが、無駄骨。しかし諦めず、数年前に会ったことのあるハリウッドの大物ローランド・エメリッヒを訪ねて事情を説明すると、それを理解してくれたエメリッヒは「すぐディズニーのプロデューサーに電話するよ」と言い、1週間後にはディズニーと話をすることができた。

こうして、ドイツ語でのリメイクの権利を手に入れたのだとか。監督のたゆまぬ交渉によって映画化が実現したんだそうです!

ちなみに、ディズニーが映画化したものは「気球の8人」というタイトルで1982年に公開されています。こちらも見てみたいです。

tsutaya.tsite.jp

製作エピソード②シュタージ中佐役のトーマスは旧東ドイツを脱出していた

シュタージのザイデル中佐を演じるトーマス・クレッチマン

実は彼、1983年に旧東ドイツを脱出して、ハンガリーユーゴスラビアオーストリアを経由して西ドイツへ移住した経験があるのです。

実際に旧東ドイツの体制から逃げ出した経験によって、当時の体制をよりリアルに表現してくれるのでしょう。

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©2018HERBXFILMGMBH,STUDIOCANALFILMGMBHANDSEVENPICTURESFILMGMBH

気になる気球の情報

ふたつの家族が亡命を成功させた気球と、失敗した気球の2機はドイツで保存されており(2017年まではナイラ・ハイマート美術館、その後はバイエルン州歴史博物館)、映画ではオリジナルと同じ寸法で作られた気球が使用されています。

製作したのは、1979年にオリジナルの気球を一度修復しているアウクスブルクヴェルナー気球会社

気球のサイズ

  • ゴンドラ:縦1.4m×横1.4m
  • 床:暑さ0.8mmの金属シート
  • 高さ:32m
  • 球皮:1,245㎥の布地
  • 取り込める空気:4,200㎥(150くらい)

2回目の亡命で使用したこの気球は、1979年当時のヨーロッパでは最大で、ギネスブックに記録されたそうです!

成功した飛行データ

めったに吹かない北風を待っての飛行。36km/hくらいの、結構早い風が吹いていたんでしょうね。

  • 最高高度:2,000m
  • 飛行時間:28分
  • 飛行距離:18km

さいごに

気球を手作りしたこともなければ、安全第一でフライトしている私たちにとっては、命を懸けて気球を作り、それで亡命するというのはまさに奇想天外。そうしてまで亡命する必要がある情勢だったのでしょうが、想像もつきません。
そんなスリリングな展開の中で、彼らが作った気球がとても大きく美しくて、惹きつけられます。

製作のエピソードも興味深くて、7月10日の公開が待ち遠しいです!

www.youtube.com

最後までお読み頂き、ありがとうございました!